ともきんぐだむ

主にゲームやアニメなどの話題について、その時、考えたことを書きます。

【悲恋ファイル8】変態漫画の正統派負けヒロイン 水窪真静(『フェチップル』より)

悲恋ファイルとは、古今東西の創作物に登場する負けヒロイン・当て馬男子について、重度の悲恋フェチである筆者が語りまくる記事です。普通にネタバレするので注意。

 

先日、第2シーズンもめでたく最終回を迎えた「フェチップル(作:るり色ズラチー)」

常軌を逸したフェチをもった男女が織り成す賑やかなラブコメ作品です。

 

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基本的には変態カップルのイチャつきを眺める甘々~なコメディなのですが、恋愛感情、特に失恋に対してはこの上なく真摯なのが悲恋フェチ的には最高。

 

今回紹介するのは、第1シーズンから水窪真静(みさくぼましず)。

呼ばれることがほとんどないから読み返すまでマジで名字を思い出せなかった……

 

第1シーズンは髪フェチの柚木太津と背中フェチの初島言花の物語。

居酒屋で二人がお互いの背中と髪に一目ぼれしたところからなし崩し的同棲までいくカップル二人が主人公です。

この時点で、もう他人が入る余地なんてないですね。運命です。

言花の「最悪から始まる最高の恋があってもいい」というフレーズが素敵。

 

水窪真静という人

フェチップル(4)

真静は太津の幼馴染で大学生。重度の声フェチです。

太津が言花を連れて実家に帰ったときに初登場。

太津の声をボイスレコーダーに入れており、いつもヘッドホンを常備しています。

イマドキっ子というルックスが可愛いですね。

 

こっそり声を録音していることを除けば、家族同然の付き合いがあり一緒に登下校していたという極めてまっとうな幼馴染。

ボーイッシュな格好をして「ハナタレしずちゃん」と呼ばれていた過去をバラされて赤面したりもします。

 

そんな真静に気持ちの変化が生じるのが太津の声の変化です。

言花と付き合ってからの太津の声は以前より暖かく、そんな声にさせる言花は素敵な人に違いないと断言します。

声フェチなのでわかるんです。声フェチなので。

 

そんな太津の「ああ、大好きだ」という声を聴いて、真静の気持ちに変化が生じます。

「一番聴きたかったのは、あの響きだったのかもしれない」と。

 

そして、その芽生えた気持ちを真静は言花に「私、太津のことが好きかもしれない」と告げ「隙があったら狙っちゃうかも」と伝えます。

正統派の恋のライバルですね。

変態行動とは真逆の、この真っすぐさが彼女の魅力の一つです。

 

膨れ上がる気持ち

膨れ上がった気持ちはもう止められません。

真静はより明確に太津にアプローチ仕掛けていくようになります。

 

その気持ちが決定的になるのが、デート回。

ゲームでモンスターを倒したご褒美として思わず「一日デートしよう」と言ってしまったのがきっかけ。

デートのためにおしゃれして「どうかな?」と尋ねたり、ぬいぐるみをねだったりと、極力普通のデートに徹しようとするところが可愛いです。

それでも、抑えきれないフェチが滲み出してはいるのですが。

腐れ縁の幼馴染ではなく、一人の女の子として見てもらおうとする真静の純粋な恋心が伝わってきます。

負けヒロインのデート回はいつ見てもよいですね。

 

夕日の見える公園。

ネコの乱入という古典的な導入により、太津に覆いかぶさる格好になる真静。

わかってる。この恋は実らない。それでも――」という葛藤の末、

「キスしたい……」と口にしてしまいます。

 

物陰から偵察していた言花(とても嫉妬深い子です)をからかったという体で、なんとかその場を誤魔化すことはできました。

「もし、言花さんに気付かなかったら私……私……ッ!」

終わらせなければ、止まれないところまで気持ちは膨れ上がってしまいました。

 

そして失恋

「髪が好きなのか、言花が好きなのか」

フェチをテーマにした作品である以上、避けられない問題です。

この作品は終始ふざけたノリでありながら、そこには極めて真面目に向き合います。

色々あって、太津の気持ちを信じ切れない言花は家を出ていってしまいました。

 

そこで太津の背中を押すのが真静です。

 

駅で偶然出会った太津と真静。

「次に会ったら告白する」と決めていた真静は、声に対しては気軽に発していた「好き」という言葉の重さに戸惑います。

髪とか服とか変じゃないか気にする真静がとても可愛らしいですね。

 

それでも、遂に決心をした真静は太津に「大好き」と告げます。

声のことならと一蹴しようとする太津に、違うよと真剣なトーンで告げる真静。

そこで真意を汲み取った太津は

「ごめん、その想いにはこたえられない」

と真正面から断りの返事を伝えます。

ここで、ちゃんとフれる男は格好いいなと思います。

 

真静は「うん、わかってる」とうなずき、叶わないと知った上で告白をした理由を述べます。

ここのセリフがとても素敵。

 

「決めてたの、最初から。

次に太津に会ったら、想いを伝えてそれで――

初恋に、終わりを作ってあげようって

だから私の自己満足なの……ごめんね」

 

大好きな人には大切な人がいる。

だからこそ、終わらせなければならない。

 

失恋した真静は、言花のことで悩んでいる太津に、「大切なものを手放しちゃだめだよ」と背中を押しながら、最後に太津の決意を問います。

「言花ちゃんのこと大好きでしょ? ちゃんと言って。太津の声で……ちゃんと聴いておきたいの」

それに対して、太津は真剣なトーンで言います。

「俺は言花のことが……大好きだ」と。

 

それが、声フェチである真静にとって何よりの最後通告でした。

そもそもが、大切な人を想う太津の声を聴いた時から、真静は自分の気持ちの変化に気が付きました。

そのきっかけを与えてくれた声を改めて聴くことで、本当に終わらせることができるのです。

 

そして、太津と別れた真静は一人泣きます。

「今だけはハナタレしずちゃんでもいいや。こうして泣けるのは……終わらせることができた証だから」と。

 

何度も言いますがこの漫画は基本は変態カップルをテーマにした甘々コメディです。

それでも、これほどまでに丁寧で、かつ残酷な失恋描写に向き合ってくれるのは、そのギャップも相まって本当に心に残るものがあります。

 

シーズン2は匂いフェチ→髪フェチ→サイズフェチ→匂いフェチという変態三人によるトライアングルがテーマ。

その性質からとある一人が失恋するのですが、こちらも本当に丁寧で素晴らしい失恋描写です。

是非、読んでみてください。