【悲恋ファイル2】恋愛の外の"聖域"だったはずが…… 小岩井吉乃(『政宗くんのリベンジ』)
こんにちは。
ほぼ週刊悲恋ファイルです。
この記事は悲恋フェチの筆者が独断と偏見でお気に入りの悲恋キャラを紹介していくだけのコーナーです。
今回紹介するのは原作:竹岡葉月・作画:Tivによる漫画「政宗君のリベンジ」(一迅社)より、小岩井吉乃さんです。
彼女は、メインヒロインである男嫌いのお嬢様・安達垣愛姫の使用人で、主人公である政宗くんを愛姫とくっつけるために暗躍するフィクサー・・・という立ち位置のキャラクター。
実は政宗くんは愛姫様とは幼少期の知り合いで、愛姫様はぽっちゃり体系だった政宗くんを「豚足」と呼び蔑んだことにより、政宗くんに恨まれています。その復讐として、細マッチョの色男になって愛姫様を落とし、こっぴどく振ってやろうと画策するのがこの漫画のストーリーです。気持ち悪いぐらい拗らせてますね。
佳乃は政宗の正体を真っ先に見抜き、「豚足」と呼びながらも、すっかり高慢ワガママに育った愛姫様の目を覚まさせるため、政宗に協力してくれます。そのドラえもんぶりは、政宗くんに「師匠」と呼ばれるほどです。
このように、政宗くんと吉乃は対・安達垣愛姫の同盟関係であり、中盤、サブヒロインたちとのあれやこれやがあろうとも、基本的には恋愛関係の外にいる存在として描かれますが、終盤一気に距離を詰めてきます。
恋愛模様とは無関係という立ち回りをしながらも、ここぞというタイミングでいきなり王手をかけてくる、いわゆるアサシンタイプの負けヒロインなのです。
アサシンタイプは、基本的に主人公に最も近い距離にいながら、それゆえに、なかなか胸の内を明かせないという不器用さが魅力。
もとの気の置けない関係からも、「この人とくっつけば絶対幸せになれるのにな」と思わせてくれることもしばしば。
その関係の深さにありから便利キャラとして居続け、突然ヒロイン争いのトップに食い込んでくるという、その不意打ちぶりと、突然見せる可愛らしさのギャップが魅力的な負けヒロインになります。
相手と高い信頼関係を築いた後に、ふっとヒロインとして牙をむいてくるので、異性との好き嫌いを超越した好感度が丸々乗っかってくるのが強みでもあります。
とはいえ、運命力をあまり積み重ねられないので、まあ負けるんですが、その後は一歩引いた立ち位置で見守ろうとしてくれることが多く、そのいじらしさも素敵なポイントですね。
個人的には、アサシンタイプは、男子女子問わず今熱い悲恋タイプのひとつ。
さて、そんなアサシンタイプの魅力を語ってまいりましたが、小岩井吉乃はアサシンの王道中の王道でありながらもやや特殊な側面を持っています。
※ここからネタバレ注意
なんと、小岩井吉乃は一連の物語の主犯格。
実は、愛姫は政宗くんを豚足と呼んだことはありません。
小岩井吉乃こそが、安達垣愛姫に変装し、政宗くんを豚足呼ばわりし追い払った張本人でした。
その動機は、「愛姫様を取られると思ったから」。使用人である吉乃にとっては愛姫様との関係こそが全てだったのです。
しかし、軽い気持ちで行ったその行動が、愛姫に消えない傷を残し過食で男嫌いでワガママの安達垣愛姫を生み出してしまいます。
吉乃はそんな罪悪感にずっと苛まれて生きてきました。
そこに現れたのが、豚足こと政宗。
吉乃が政宗くんに協力したのは、そんな過去を少しでも罪滅ぼししたいという想いからでもありました。
でも、そうして協力することになった肝心の政宗くんは、恋愛面ではポンコツでした。
なので、吉乃は細かく彼を世話してやることにします。
そうしているうちに気持ちの変化が訪れます。
気取ってるくせに、アホでヘタレで時に頑固で、それでもいつも一生懸命な彼のことを吉乃は好きになってしまったのです。
様々な紆余曲折を経て、9巻にて政宗は愛姫と付き合うことになりました。
でも、そんな時の彼の一言、
「師匠と計画練ってる時が一番楽しかったかもしれない」
彼の発言で、吉乃の想いは決定的なものになります。
ヘンなとこで意固地
とんちんかん
にぶちん
だから、まさか、胸が痛む日が来るなんて思わなかったよ
しらないふりをしようとおもったよ
(政宗くんのリベンジ 10巻)
吉乃の内面の吐露が、もう許されない想いとの葛藤が表現されていて、素晴らしいです。
アサシンタイプの鉄板ですね。
一生懸命な彼と二人三脚で歩いていたら、いつかその関係がかけがえのないものになっていたのです。
その後、更なる紆余曲折を経て、吉乃は見事に特攻し、玉砕することになります。
最後の最後まで正妻がわからないラブコメというのは往々にして消化不良になりがちですが、この作品は極めて明確に回答を出してくれた作品だと思います。
このあたりの経緯は、是非、原作を読んでみてください。
ひとつ言えるのは、吉乃が好きになった政宗は「安達垣愛姫のために一心不乱に奔走する彼の姿」でした。
9割吉乃有利といった盤面でありつつも、そこが、明暗を分けたといえるかもしれません。
通常はさらりと告白してさらりと散ることが多いアサシンタイプ。
「今のは冗談」といって誤魔化してしまうことも多いアサシンタイプ。
小岩井吉乃は、その中ではかなりチェックメイトに近いところまで食い込んだアサシンの中の希望の星とも言えるでしょう。
それは、過去への贖罪意識や、メインヒロイン愛姫との関係など、ポーカーフェイスの下に忍ばせた拗らせた思いが、ベースにあります。
これらの過去を交えて、政宗に対する想いを、もっと巨大な感情にすることはできたかもしれません。
それでも、決して同情や罪悪感ではなく、すぐ傍で彼を見ていたから恋心が芽生えてしまったというのが、吉乃の魅力であり、純粋さです。
誰よりも主人公の近くで、影から想いを育んできた不器用な女の子である小岩井吉乃。
とてもいい負けヒロインだと思います。
これを機に、アサシンタイプのヒロインを愛好してみてはいかがでしょう。