【悲恋ファイル4】制作に愛を注がれたモブ系負けヒロイン 森村さん(ミュークルドリーミー)
※悲恋ファイルとは、古今東西の創作物に登場する負けヒロイン・当て馬男子について、重度の悲恋フェチである筆者が語りまくる記事です。普通にネタバレするので注意。
今回、紹介するのは現在放送中のサンリオ原作のアニメ「ミュークルドリーミー」より、森村さん。
とてもかわいい。
この子は本当に悲恋キャラとしての完成度が高く、登場時したときから期待を寄せていました。
そして、「この子の話がひと段落したら絶対に自分の言葉でまとめよう」と思っていたところ、光の速さでひと段落させてきたので、こうして紹介しています。
実にテンポの速いアニメです。ミュークルドリーミー。
ミュークルドリーミーは、喋るぬいぐるみのマスコットたちをパートナーにした少年少女たちの、ドタバタな中学生活を描いていくという王道女児向けアニメです。
テーマがいろいろ並行しているのですが、その中でも大きなウェイトを占めるのが主人公のゆめとその幼馴染・朝陽の、なかなか自覚できない甘酸っぱい恋愛模様。
そこで当て馬として登場するのが、森村さんです。
アニメ本編を見て、その可愛さに悶絶した人も多いと思います。
トレンドに「森村さん」が入るくらいには話題をさらった子です。
当て馬モブ子の新機軸
古今東西、ラブコメにはしばしば「メインキャラの感情をあおるためだけに出てくる当て馬」が存在します。
一話か二話で告白騒動を起こして、主人公たちをモヤモヤさせる子ですね。
そんな役割なので、当然深い設定がなされるはずもなく、限りなくモブに近い普通の子であることが多い。
森村さんはそんなモブ子の一人です。
ただし、作画面とシナリオ面で破格の待遇を受けているので、数多いるモブ子の中でも注目を浴びやすかったといえるでしょう。
これだけ尺を割いておいて、さらには声優に今をときめく石見舞菜香さんをあてがっておきながら、頑なに下の名前を設定しなかったことにスタッフの鋼の意思を感じますね。
15話で登場し20話で失恋するまでの6話の間、視聴者の心を惑わせ続けましたが、あくまでモブ子です。
では、そんなモブ子の特徴をいくつか挙げながら、森村さんの魅力を解説していきましょう。
一途で真っすぐな恋心
恋愛ものとは一般に普通じゃない恋愛を描くためにあるので、そのアンチテーゼである当て馬女子は至極普通の恋愛をします。
逆に言えば、普通の幸せを体現しているとも言えます。等身大の恋をする、等身大の女の子として描かれるのです。つまりは共感しやすい。
そして、森村さんが朝陽を好きになった理由は、ほぼ語られません。
「テニスに真剣に打ち込む南川君がかっこよかったから」
それだけです。特別なエピソードのない、純粋なあこがれです。
だからこそ、見る側には混じりけの一切ない純粋な恋心として映りますし、応援したくなりますよね。
傍観者
モブ子はメインキャラクターと特別仲が良いわけではありません。
だからこそ、主人公たちの様子を客観的に見ることができます。
当て馬として重宝される理由はこのあたりにもあります。
森村さんも、朝陽とゆめの間に特別な空気が流れていることに気付いていましたし、夢の中とはいえその事実をぶつけています。
モブ子には、そんな客観的な情報を提供して主人公たちに行動を促すという役割もあるのです。
だからこそ、このようなモブ子は冷静で客観的なものの見方をできる子が多かったりします。
「好きな子のことを遠巻きに見ている、奥手で一途で謙虚で空気の読める女の子」
実に理想の女の子ですね。
何度、こんな恋をされてみたいと願ったことでしょうか。
何も持たないからこその正攻法
森村さんはモブ子なので、朝陽との間に特別なつながりは一切ありません。
となれば、朝陽との距離を近づけるには自らアプローチしていくしかないのです。
まさに生まれながらにして幼馴染というファストパスを手に入れている主人公とは大違いですね!
しかし、森村さんは非常に奥手で照れ屋。
コイバナを振られると顔を真っ赤にして湯気を吹き出してしまいます。可愛い。
それでも、友達のミカちゃんの後押しも受けながら、勇気を出して一歩ずつ距離を縮める姿が丹念に描写されます。
(この過程が丁寧に描かれているのが、普通のモブ子とは一味違うところ)
まさに、友情・努力……というジャンプの王道。応援したくならないわけがありません。勝利しないけど。
恋に恋する女の子が、勇気を振り絞って好きな男の子にアプローチしていく、その姿こそが森村さんの良さともいえるでしょう。
醜い感情だって持っている
ここが重要。
森村さんはとてもいい子です。
でも、叶わぬ想いはそんな子の心にも影を落とします。
そのギャップこそが、悲恋キャラの最大の魅力と言えるでしょう。
森村さんは朝陽のことをよく見ています。
真剣にテニスに打ち込んでいる朝陽の姿に憧れたのです。
であるからこそ、その視線の先にある日向ゆめという女の存在は無視できません。
朝陽とゆめの間には、恋人がどうとか関係なく特別な空気が流れています。
そんなんずるいに決まってます。
たとえ、自分が朝陽と恋人同士になったとしてもそんな空気は作れないのですから、ずるいもんはずるいのです。
森村さんが初登場したのはお祭り回。
自分の誘いを断って、幼馴染と“いつもの空気”で接している朝陽を目撃し、森村さんは涙します。
朝陽とゆめを目撃して涙を流す森村さんの作画はやたらに気合が入っており、ここに森村さんの魅力の全てが詰まっているといっても過言ではないでしょう。このシーンだけでも何度も見れます。
それは裏切られたというショックもあるでしょうが、越えられない壁の存在を察してしまったからという理由が一番大きいのではないでしょうか。
事実、ブラックアビスを植え付けられた時も、森村さんはゆめへの嫉妬心をむき出しにします。
“あなたさえいなければ・・・!”
“私と朝陽はただの幼馴染だから・・・”
“だから何だっていうのよ”
これは紛うことなき本音でしょう。頑張って登山している中、隣にロープウェイのチケットを持って寝ている奴がいたら、落ち着けるはずがありません。
そんな醜い感情まで喚起してしまうのが、片想いのつらいところであり、一介のモブ子に魂が宿る瞬間でもあります。
こんないい子が、報われない想いゆえに、自分の中の嫌な部分と向き合わなければならないのです。
一方のゆめとミュークルドリーミーたちは「ブラックアビスのせい」と執拗に連呼して問題から目を背けるのがなんとも業が深い。
その後のなんとも言えない朝陽の態度含め、多々思うことはあれど、朝陽と花火を見ることができただけでもよしとする森村さんのいじらしさが素敵でしたね。
結局、特別な空気に対抗するには、時間を積み重ねていくしかないのです。
そして告白
そんな森村さんに急展開が訪れたのが、テニス部チア部合同合宿。
時間の積み重ねのないまま、テニス部女子たちの盛り上がりに押されて森村さんは告白することになってしまうのです。
告白を決意する夜のコイバナが始まるまでは、「この想い南川くんに届け!」と言ったり、邪魔が入ると「届かなかった・・・」と嘆いたり、本人に告白の意思はなかったことが伺えます。
それでも、テニス部女子の中では勝手に既成事実が積みあがっていきます。後には引けなくなったので、森村さんはバーベキューの買い出しの最中、遂に朝陽に告白をすることになるのです。
あのね、花火大会の時ちゃんと言えなかったんだけど
私、南川君のことが好きです
だから、私と付き合ってもらえないかな・・・?
混じりけのない真っすぐな告白、まぶしいですね。
ところが、ここで南川くんがよい子もびっくりのクソ対応をすることによって話はこじれていきます。
俺は、森村さんのこと小学校も違うし、クラスも違うけれど、部活が一緒で、テニス頑張ってるなって思ってて
俺ももっとテニス上手くなりたいから、一緒に頑張れたらなって
森村さんはこのどちらとでも取れる曖昧な返事をオッケーと勘違いし、舞い上がります。
そこからはすっかり彼女気分です。かわいい。
このシーン。100%南川に問題があるのですが、一応、南川くんの弁護をすると、この手の男がこの局面で曖昧な返事をするときはだいたい「突然そんなこと言われても、嫌いじゃないけど好きでもないから困るし、正直この子のことよく知らないからイエスって言ってしまうのは後々怖いし、かといってはっきりノーといって傷つけるのも自分が悪者みたいでいやだし、そもそもこれで終わりにしちゃうのはなんか勿体ないし・・・関係はっきりするまでキープ」みたいな心理が働いています。間違いなく働いています。
これに対する評価は読者の皆様にお任せします。
そして玉砕
合宿から帰ってきて早速お弁当を作っていく森村さん。
バーベキューでもそうでしたが、細かく一緒の時を刻んでいくことをとても大切にしていますね。なんといっても、関係を積み重ねていくことが大事ですから。
ここで「え、なんで?」をかます南川。
微妙な空気が流れたところに、ミカちゃんが助け舟を出します。
「こっちはダメならダメで次に行くんだよ!」
曖昧な男に対する綺麗なカウンターパンチですね。
気持ちがはっきりしてから付き合うのか、関係がはっきりしてから付き合うのか、永遠の問題ではありますが、彼女らの中では既成事実は十分に積みあがっています。大事なのはイエスかノーかです。
それに対する南川のリアクションがまたすごい。
「ええっ、二択?」
二択以外何があるというのか?
この男は、この期に及んで二択であることに驚くのです。温度差ですね。
結局、南川はなにやら言い訳をごちゃごちゃ言った末に、消えそうな声でNOと言います。
ここで言い訳かますのも、嫌なリアリティがあってすごいですねこのアニメ。
ともあれ、男の嫌な部分に振り回されましたが、結果として森村さんは見事に玉砕したわけです。
とはいえ、この場合、森村さんの直接の敗因はゆめとはあまり関係がなかったりする。
というのも、問題はテニス部女子という集団の強烈な圧により、きちんと関係性を構築する前に告白してしまったことです。
ここが優柔不断男・南川に逃げる隙を与えてしまいました。
テニス部女子はもうちょっと外堀をちゃんと埋めてあげるべきだったと思う。
告白する前にしっかり接近するのか、あるいは曖昧なオッケーをした朝陽に対して積極的にアプローチをかけていくのか。そういった形での関係性の構築が、ゆめを揺さぶる展開を密かに楽しみにしていましたが(その上でゆめには勝てないんですが)それは見られぬまま終わってしまいました。これもまた、モブ子の宿命なのかもしれません。
あまりの急展開だったので、傍観者のまま終わってしまったゆめに対してはほぼノーダメージで、どちらかというと南川に悔恨を残したのみという結果になりましたね。
そんなわけで森村さんの恋は見事に終わってしまったので、今後、森村さんの一件がどう伏線として機能するのかは、正直わかりません。
ゆめとの恋愛事情に直接関与しなかったことは残念ではありますが、それでも中学生活を生々しいリアリティを持って描くというこのアニメのコンセプト的には、ある意味、正しい一幕だったのかもな、と。
それにこれ以上、森村さんがゆめと朝陽の関係に踏み込んでいたら、女児向けか怪しい取り返しのつかない地獄が待っていたのも事実なので。
その後
見事に玉砕した森村さんですが、ミカちゃんの励ましもあり「もっといい男子見つける!」と秒速で立ち直ります。この展開の速さこそミュークルドリーミー。
そして、なんと競争率過多のイケメンテニス部・杉山先輩の追っかけをはじめます。
この変わり身の早さにもいろいろなリアリティを感じてしまうところですが、実はここで杉山先輩に矢印が向いたというのが実は重要。
結局のところ、森村さんの恋はあくまで憧れであって、恋に恋する乙女でしかないのです。
つまり、相手の人生に対して見届けたいという傍観者としての憧れはあれど、そこに自分がどう絡まっていくかのビジョンがない。
これは、特に当て馬気質の強いタイプの負けヒロインに多く見られる特徴でもあります。
恋愛ものとは多かれ少なかれ、登場人物の心理的成長を描くものですが、森村さんの朝陽への一途で無条件な愛情は、彼の成長に寄与しないんですね。
このあたりが、たとえ不人気であっても、性悪系暴力ヒロインが勝ってしまう理由でもあります。
その対比で、ありのままを肯定してくれる負けヒロインの魅力が際立ったりもするので、世の中難しい。
やっぱり一途で無垢で無条件の愛情は、見ていて眩しいものです。
だからこそ、たとえ、悲恋以外の展開が待っていなかろうが、こういうキャラは魅力的なのです。
とても綺麗で真っすぐな恋をし、それゆえに報われず、ちょっとの嫉妬が入り混じる。
森村さんは、そんな正統派負けヒロインの魅力が詰まった素晴らしいキャラでした。
南川には、10年後ぐらいに惜しいことしたなーと後悔しまくってほしいね。