ともきんぐだむ

主にゲームやアニメなどの話題について、その時、考えたことを書きます。

【悲恋ファイル3】ちょっと倫理観がバグってるだけのモブ子 三堂三姫(異常者の愛)

悲恋ファイルとは、古今東西の創作物に登場する負けヒロイン・当て馬男子について、重度の悲恋フェチである筆者が語りまくる記事です。普通にネタバレするので注意。

 

 

今回紹介するのは、千田大輔「異常者の愛」より逆襲のモブ子三堂三姫さんです。

 

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彼女はいわゆる「負けヒロイン」というカテゴリには属さない異色の存在。

「異常者の愛」はいわゆるサイコホラーと呼ばれるジャンルであり、三堂三姫は作品の軸となる殺人者です。

そんな彼女を、なぜ悲恋というカテゴリで紹介するのか。

それは、異常性を抜き去った際に現れる彼女の素顔にあります。

 

 

引っ込み思案な少女三堂三姫は小学校の時、同級生の一ノ瀬一弥に恋をします。

きっかけは消しゴムを拾ってくれたこと。実に可愛らしいものです。

内気な彼女にとっては、そんなささやかな出来事がたまらなく嬉しかった。

しかし、そんな一弥には両想い同然の幼馴染、二海二美香がいました。

 

ここまで書くとおわかりかもしれませんが、三堂三姫はいわゆるモブ子です。

特別なつながりも面倒なしがらみもなく、ただ当たり前に主人公に恋をしたモブ子なのです。

むしろある話で突然登場して散っていくような、典型的当て馬タイプとも言えます。

 

こういったモブタイプの負けヒロインというのは、恋愛ものにおいてたびたび登場します。

大抵は物語の中盤にいきなり登場して告白騒ぎを巻き起こし、メインキャラクターたちの感情をかき乱すのがその役割。

惚れたきっかけというのは、本当に表情だったりちょっとした優しさだったり、本当にささやかなものが多いです。あまり特別なものがあったら本筋に支障が出るので。

当然、その成り立ちからして存在が玉砕前提です

 

そんな存在感のないモブタイプの負けヒロインですが、私は大好きです。

特別な運命などない等身大の恋愛感情こそが、こういったキャラクターの魅力ですね。

普通ではない恋愛を描くことが目的の恋愛ものに退いて、普通の恋愛を体現する役割もあります。

下手をすれば下の名前すら設定されてないこともありますが、私はこういったキャラクターが登場するたびにワクワクしています。

 

三堂三姫も、そんなモブ子の一人でした。

ただちょっと、倫理観がぶっ壊れてるだけで。

 

小学五年生で、三堂三姫は一弥に告白をします。

でも、一弥くんは二美香のことが好きなので、その告白を断ります。

曖昧な返事をしないあたり、漢ですね。実に漢です。

 

フラれた三姫さんは一弥に尋ねます。

「もし、二美香さんがいなかったら、私を選んでくれた?」

一弥は「そうかもしれない」と返します。

 

それを聞いた三姫さんはその日のうちにカッターで二美香ちゃんの首を切って殺しました。

ここまでが第一話。

濃いですね。

 

証拠を隠そうともしないので当然のように三姫は施設送りとなり、一弥は一人取り残されます。

深刻なトラウマを植え付けられて心を閉ざした彼のこころを開いたのが、高校の同級生である四谷四乃さん。

一弥のトラウマを聞いて、一緒に背負おうとしてくれます。

運命共同体をまっすぐ目指すさまは、まさにメインヒロインの風格ですね。

 

そんな様子を、施設を出た三姫に目撃されます。

浮気は許しておけませんね。

というわけで、四乃のお腹を切り裂いて拷問したのち、彼女の目の前で縛り付けた一弥の童貞を奪います

しかも、あられもない姿にされた四乃さんの写真をばらまくぞという丁寧な脅しつき。

さすがに殺人で施設に入れられたのはこたえたのか、やや仕打ちがマイルドになっていますが、それでも深刻なトラウマには変わりありません。

そのまま二人は疎遠になり、大人編を迎えます。

 

五年経った大人編でも、三姫はなおも一弥とその周辺を執拗に狙い続けます。

なんと、周到な拷問と根回しにより一度はラブラブの同棲生活まで勝ち取ります

大人なのでかなり頭脳派です。

そんな地獄の状況を一弥が打ち破るのか、四乃さんとの関係はどうなるのか。

そして、三姫に待っている結末とは。

そのあたりは是非、作品を読んでみてください。

 

一弥に罵倒されるところ含め、その異常性がとにかく強調される三姫ですが、その本質はすごくシンプルなところにあります。

彼女は、一貫してモブ子に過ぎないのです

特別な運命などなく(一応あるにはある)ただ彼の素顔に恋焦がれただけの普通の女の子なのです。

手段がかなーり過激ですが、その真っすぐな想いを一切変えることなく貫こうとしているだけなんですね。

 

ですが、それがモブ子の限界でもあります。

三姫は最後まで一弥の運命共同体になることはできませんでした。

彼の運命を背負うだけの強い運命力を持っていなかったのです。

……いや、その運命を押し付けた張本人が彼女なんですけど。

物語においては愛情よりも運命力がものをいいます。

最後まで一介のモブ子としてのスタンスを変えなかった彼女には、物語の女神は微笑んではくれないのです。

 

しかし、その一貫性こそが彼女の魅力でもあります。

たとえ、運命力に愛されなくとも、モブ子がモブ子としての恋心を抱いたまま、その初志を貫徹するさまは美しい。

あくまで、運命を背負うのではなく、彼に振り向いて大切にされたい普通の女の子が三堂三姫なのです

あらゆる手段を講じて、なんだかんだ同棲してHするまでに至った三堂三姫は、モブ子界の希望の星ともいえるのではないでしょうか。

……ここまでしないとモブ子には可能性がないということでもあるんですけどね。悲しい。