偏りまくった「イエスタデイをうたって」感想2 ~なぜ男は森ノ目榀子に惑わされるのか~
こんにちは。
感想1では野中晴という当て馬女子が価値をもぎ取るまでの過程について考えてきました。
今回は、ある意味本作を象徴するヒロイン森ノ目榀子の話です。
各所で核弾頭だの地雷だの言われている彼女ですが、その詳細を改めて語るのも野暮だと思うので、なぜ陸生や浪は森ノ目榀子に狂わされ続けたのかにフォーカスしていきたいと思います。
森ノ目榀子は地雷としてのスペックがあまりにも高いのですが、彼女のようなあり方の人って多かれ少なかれ現実にもいるので、現在進行形で悩まされているという人も多いと思うんです。
悪女に悩まされている方、悪女になりたい方、そんな人たちに、少しでもこの記事が参考になれば幸いです。
ちなみに回避方法はありません。
森ノ目榀子のここがすごい1 ~徹底した間合い管理~
森ノ目榀子は自分の理想とする距離感を絶対に譲りません。
具体的には、「友達以上恋人未満」という関係性から少しでも近づくことも遠のくことも許しません。
それが陸生の場合は気の置けない友人であり、浪の場合は大切な家族でした。
そこから少しでも近付こうものなら「今の私にそんなことは考えられない」と拒絶します。
そこから少しでも遠のこうものなら「どうして私を置いていってしまうの」と引き留めます。
森ノ目榀子は「今の関係が一番だよ」ということを再三強調してきます。
しかし、男性陣からすればこの距離は生殺しなわけです。
というのも、榀子はたびたび「好意を持たれているのは嫌じゃないし嬉しいよ」と言います。
つまり、好きだけれども一歩踏み込めないという関係をキープしろと言っているわけです。
陸生に対しても、「もっと積極的に来てほしいのに」といいながら、実際に積極的に来たら拒絶します。
くしゃみが出かかっているのを我慢しろと言っているようなものです。
実際、浪も一度耐え切れずに榀子に抱き着きましたね。
「なんでそんなことするの?」と切り捨てられましたが。
森ノ目榀子のここがすごい2 ~いつだって被害者~
森ノ目榀子はいつだって被害者です。
自分の望まない結果になったときは「どうしてこんなことになるの?」と被害者面をします。
女の涙は武器として使えと言いますが、彼女の涙はブービートラップです。
自分の望む状態から一歩でも踏み出そうものなら泣き落としで相手に罪悪感を背負わせます。
先ほども述べた通り、彼女は男に生殺しの距離感を強要するわけですが、その関係を壊したら榀子は被害者です。
榀子は惚れた弱みと言うものを理解しています。
自分が被害者ムーブをすれば、相手はそれ以上強く言ってこないことを熟知しているのです。
男どもは榀子に好かれようと思っているわけですから、涙を見せた榀子に優しくするのは至上命題なのです。
そうしてなんやかんや自分が悪かったと謝罪する形になります。
これが男を沼に引きずり込むうえで重要です。
罪悪感は人を縛るのに適しています。
加害者の肩書きを背負わされた男は、贖罪のためにいっそう榀子を気遣うようになります。
そうして、男は自ら生殺しの距離感の沼に入っていくのです。
では、贖罪を果たして加害者被害者の関係から卒業すれば、一歩先へ進めると思いきや、そう容易くは行きません。
森ノ目榀子のここがすごい3 ~絶対に前には進まない~
榀子はたびたび、かつての想い人のことを忘れて前へ進もうという趣旨のことを言っています。
ですが、この話、結局最終回まで一歩も過去から前に進まないんですよね。
それが森ノ目榀子の恐ろしさのひとつです。
過去に囚われているというその状況を自らのセーフティネットとして利用します。
相手が一歩でも近づいてこようものなら「まだそんな気持ちになれないの」とアラートを発動するのです。
そんなこと言っていつまでもうじうじしていたら男も愛想をつかすのではないか?と思いますが、そこにも対策を打っています。
「私だって忘れようと頑張っているんだよ」という努力するポーズを欠かしません。
その実、どんなに前に進んだよと口では言っていても、事あるごとに昔の回想を挟みます。
ここでも被害者です。
忘れたくても忘れられないかわいそうな私なのです。
なので、そこを突いて来ようものなら「これでも頑張ってるんだよ、なんでそんなこと言うの?」という被害者ムーブで相手の攻め筋を封じます。
このように、前に進まない自分を被害者、前へ進めと強要してくる人間を加害者と認定することで、彼女は一歩も前に進まないぬるま湯の関係を維持し続けることができるのです。
森ノ目榀子のここがすごい4 ~それでもあなたは唯一無二だよ~
ならば、そんな女見限ればいいだろうと思うでしょう。
榀子の真骨頂は相手を「自分にとって特別な存在」と位置付けるところにあります。
陸生であれば、どんなことでも相談できる友人ですし、浪であれば大切な家族です。
それぞれが、「自分にとっての一番の存在」なのです。
そのため、どんな局面でも榀子の存在を意識せざるを得ない距離感を強要されます。
「好意を持たれているのは嫌じゃない」というラインをキープしながら。
そんなワンチャンありそうな距離をキープするので、男は他の女性のところへ走ることができません。
しかも、他の女の影がちらつくとしっかり嫉妬もしてくるので、なおさら他の女には行けません。
野中晴が延々と待たされた挙げ句最低な放置の仕方をされたのもそこに原因があります。
もちろん、これに関しては陸生がそれ以上に悪いんですが。
榀子は相手の人生において重要なピースであるという立ち位置を要求します。
そして、そこから一歩でも離れようものなら「どうしてみんな離れていくの」という被害者ムーブ。
一歩でも近づこうものなら「それでも過去が忘れられないの」というセーフティーネット。
惚れた弱みに付け込んだトラップによって、男に生殺しの距離を強要し翻弄するのです。
そして、何より恐ろしいのがそれをすべて天然で行っているということ。
自分の本音に向き合おうとしないのが原因の一つなのですが、自分にとって心地よい距離を保つための防衛本能として、これらの全てを無意識で行っています。
計算された被害者ムーブではなく、本当に本人は自分を被害者だと思っている。
それを何とかしてあげたいと思うからこそ、男は彼女に狂っていくのでしょう。
彼女自身、常に被害者面をしているので、こんなに逆ハー状態を築こうが彼女自身まったく幸せではないというところもミソ。
いやあ、世の中ままならないですね。