ともきんぐだむ

主にゲームやアニメなどの話題について、その時、考えたことを書きます。

「非モテ男性にはライトオタク女子がおすすめ」をどう批判すべきか

こんにちは。

今回は、世の中をちょっと騒がしている「非モテ男性にはライトオタク女子がおすすめ」というすもも(@sumomodane)氏の発言を巡る一連の騒動についてです。

彼の提案と、その批判の詳細はそれぞれ以下にまとめられています。

togetter.com

togetter.com

あまりのこの手の話題には興味がなかったのですが、時々TLに双方の意見が流れてくるので調べてみたところ、どうにも論点がすれ違っているように見える。

その結果見えてきたことは、提案者サイドの人間は、女性サイドの怒りの由来を理解していないし、女性サイドの人間は、適切な批判ができていないため相手の術中にハマっているということ。

すもも氏の出した結論にははっきりと弱点があるのですが、批判の仕方がおかしいために、内容以前の部分で返り討ちにされてるんですよね。

このままでは、せっかくの統計調査が、ただの煽り合いの道具になって埋もれてしまう。

それは勿体ないと思ったので、自分なりにこの問題を整理してみることにしました。

 

手短に結論をまとめると、統計調査を行うこと自体に異議を唱えるのは明らかに不合理ですし、それ自体を差別と結びつけることは不可能です。この騒動の根っこは、データに実態を無視して「非モテ男性」「ライトオタク女子」というラベリングをしたという、扇動的で悪意ある言語選択にあります

この記事では、まずよくある批判の問題点を整理し、その後に肝心のデータ分析の問題点をまとめていきたいと思います。記事中では、便宜上「非モテ男性」「ライトオタク女子」という単語を用いますが、これはあくまですもも氏の定義した集団としての利用しているだけで、私自身はその価値判断を行わないという点には注意してください。(実際にその指摘は外れていると考えています)

 

 

統計データを批判するということ

このデータは民間の調査会社に依頼し、ランダムにサンプリングされた20~35歳の未婚女性に行った質問紙調査の結果です。

これに対し、因子分析や相関係数など、諸々の統計手法を用いてメスを入れています。

この分析方法に関しては、すもも氏はいたってフェアです。各種データの母数は記載しているし、それぞれの指数や尺度、除外データについてもきちんと説明をしている。つまり、同じデータさえ手元にあれば、誰でも同じ結果が得られるようになっています。

これほどフェアな報告書に対し「統計を半端にかじっただけ」という批判をするのであれば、その内容は具体的でなければ説得力はないです。それがないならば、ただの誹謗中傷です。

世の中、分析方法に一点でも間違いがあると、「ならばこの報告はすべて過ちだ!一顧だにする価値なし!」と思考停止で否定したがる輩が多いですが、それは過ちでしょう。

データそのものに嘘がないとするならば、得られた結果になんらかの意味はあるし、有意差が認められるならば、妥当性はさておき理由を解釈することができます。

別の統計手法を使ったほうがよりよいというのであれば、その手法を用いた分析を要求するべきでしょう。

手法に対する批判は当然あって然るべきで、(私は統計に詳しくないので大きな問題点は見つけられませんでした)それに対する議論は継続されるべきでしょうが、あろうことか手法を批判する人間が結果ありきで語っちゃってるので、わけわかんないことになってます。

少なくとも氏が反応した批判の中に、純粋に統計手法について建設的な批判をしているツイートは見受けられませんでした。

この手の批判をするなら、ちゃんと具体的に批判しましょう

 

統計調査そのものへの批判

「女性をカテゴライズして道具のように扱うな」という批判の実に多いこと。

この批判、お気持ちはわからないでもないですが、確実に自分に跳ね返ってきます。

残念ながら、人類社会の殆どはカテゴライズとラベリングによって成り立っています。これが、あまりに増えすぎた人類集団を認識する上で不可避なことだからです。

人間の寿命は有限なので、出会った人すべての情報を知ることはできません。完全な解像度で向き合える人間の数には限界があります。

人間の視覚は、「注目している部分」と「それ以外の部分」では解像度が違っているのですが、人間を理解する上でもこの原則は適用されます。つまり、「注目してない人」は粗い解像度で見るしかありません。

それは「うるさいオバチャン」かもしれないし、「会社員男性」かもしれない。あるいは「喋るタマネギ」と認識している人もいることでしょう。

遠景を見る時と同じように、人は人を認識するときに、粗い解像度から徐々にそのディテールを修正していきます。

今回行われた統計調査は、その粗い解像度を分類する話です。

非モテ男性」が婚活を始めるにあたって、まず大雑把に見るべき方向を指摘するというのが本来の目的です。

個人と向き合うのは、その次のステップの話なので、ぶっちゃけその批判はこの調査に関係ないです。

例えば「引越し先を決めよう」と思ったときに、実際に住んでいる人のことは考慮せずに「あの市の治安は良い/悪い」といったように大雑把に住むべき土地を絞り込みます。

それぐらい大雑把に住所を定める話だと思ってください。当然、治安の悪い土地の中にも例外はいくらでもあるわけですが、今はそれは問題じゃないです。

このような粗い粒度で世界を認識するという行為は、誰しもが日常的に行っているはずです。むしろ、データから割り出した分、良心的とすら言えます

特定の集団を特定の粒度で認識することそのものは差別になりません。

今回は、そうやって認識された集団に「非モテ男性」「ライトオタク女子」という名前を与えたことに問題があるのですが、それとこれとは別の話です。

 

拡大解釈されたものへの批判

元来の主張を「非モテ男性にライトオタク女子をあてがえ」というように読み替えて批判している方も見受けられます。

内容が内容だけに、伝言ゲームで内容が変わっていったと推測されますが、すもも氏はそんなこと一言も言ってないんですね。

あくまで、「非モテ男性に属する男性が、婚活市場においてターゲットにするべき層」というターゲット戦略として提示しているに過ぎません。そのあたりの線引きは、慎重に言葉を選んでいます。

つまり、「いま理系男子がアツイ!」「プロテインで筋肉男子のハートをゲット!」みたいな記事と同じレベルのことしか語ってないです。

(これも人権侵害というのであれば、そこは人権の定義次第なのでそのように運動すればよろしいと思いますが、それで一貫性のある主張を作ろうとするとなかなか大変なことになると思われます)

断る自由はもちろんありますし、あくまで「非モテ男性」側が主語なので、そもそもライトオタク女子側の需要について語ったものではありません。

私個人の推測ではこの結論には決定的なミスが有るので、屍の山が築かれると思われますが、ターゲット戦略として提示する分には、十分妥当であると言えます。

つまるところ、典型的な主語の読み違いです

主体と客体という言葉からもわかるように、主語でないものに対して人格から切り離した分析をするのは、十分に理性的な行いです。

すもも氏は「男性」が主語になっていますが、どこかで主語が「女性」にすり替わっていた。

インターネットあるあるなので気をつけたいですね。

 

 

ここまで、批判側の問題点をざっと見てきましたが、まあ……「いつもの」感すごいですね……

双方が「相手が無理解だから」の一点で突破できると思ってるからなのか、何なのかはわかりませんが、「相手の主張はさておいて、かっこいい演説を決めたら勝ち」感がすごい。

個人的印象では、互いの使ってる日本語が双方よくわかってないように見えるので、整理と対話をもっとしていくべきだと思います。

 

非モテ男性という言葉の問題

で、今回のデータ分析の問題点です。

ズバリ一言で言うと、これ、「非モテ男性」じゃなくて「草食男子」だったらおそらく問題起きなかったですよね

分析された「ライトオタク女子」の特徴の一つに「相手にルックスや収入などを求めない」という点があります。これって、過度の「プラス」は求めず「ゼロ」でよいという話です。ところが、非モテ男性という言葉の響きは明らかに「マイナス」のそれです。

「ライトオタク女子」の側からすれば、プラスはいらないってだけの話なのに、なんでいきなりマイナスを押し付けられにゃならんのだ、と腹をたてるわけです。普通のアパートを求める相手に事故物件押し付けるようなものです。

なんでこんなことが起こったのか。

大きな要因はライトオタク女子の潜在需要を探っていないからです。

この調査では、女性側の需要を基本的に「スペック」と「モテ」の2軸で評価しています。そして、これら両者を「求めない」という理由で非モテ男性に狙い目がある、と断定しているわけです。

当然それって「誰でも良い」とは別の話なので、ライトオタク女子に分類された側にも要求や需要はあります。「スペック」と「モテ」以外の評価軸が存在しうるはずなのです。ところが、このアンケートではそれは出てきません。

それを無視して「どんな層でも受け入れうる」としてしまうのはあまりに乱暴な議論と言わざるを得ないでしょう。

このデータから言えることは「ライトオタクな趣味を持つ女性層は、モテやスペックを重視しない」という点だけで、そこから「非モテ男性」に飛躍することは不可能です。そして、この「モテやスペック」を大きく持っていない男性を示す言葉として「草食男子」という単語が広く知られている以上、こちらを使ったほうが幾分か妥当ではないでしょうか。

また「ライトオタク女子」が相手に求めるのは「優しさ」の因子が大きいとも主張されています。

非モテ男性」に「優しさ」はないです。そして、ちょっとした努力で簡単にどうにかなるものでもないです。そこも含めて全スコアがマイナスな人間を一般には「非モテ男性」と呼ぶのではないでしょうか。残念ながら非モテ男性はエロゲ主人公ではないのです。

つまり、非モテ男性」って「ライトオタク女子」の需要を満たす層ではないんですよね。需要はあるけど、調査されてないだけです。

この現象はアンケートなどの量的調査のよくある弱点で、調査してない項目については、実態が見えてこないんですよね。問いの設定の仕方が間違っているといくらでもおかしな結論が出てくる。なので、問いを設定するための質的調査が重要なのです。

この問題に真摯に向き合うつもりであれば、「ライトオタク女子」の需要を丹念にインタビューする質的調査を行い、そこで問いを再設定して量的調査に戻ってくるべきでしょう。そのうえで、「非モテ男性」が僅かな努力で「ライトオタク女子」に見合う男性になれるというのであれば、そのように主張すればよろしい。

量的調査は、客観性が高く強力ではありますが、万能ではないのです。

 

ライトオタク女子という言葉の問題

そしてもうひとつ、「ライトオタク女子」というネーミングにもマジックがあります。

文中ではしっかりと「マンガ・アニメ・ゲームに特化しているのではなくカラオケやカフェ巡りなど、それ以外にも興味がある層」と定義されていますが、これを「ライトオタク女子」と呼ぶべきかは疑問が残ります。

まず1つに、「単に興味の幅が広いだけで、オタクなのかこれ?」です。マンガ・アニメ・ゲームの内訳もよくわからないので、一般にオタク趣味とされる領域かもよくわからない。LINEマンガを読んで、ポケモンGOやツムツムに興じる層を一般にライトオタクとすら呼びませんが、その人達も射程に入っているようにも見えます。

もう一点、一見ピンポイントに見える「ライトオタク女子」という呼称。極めて「ひょっとして自分かも?」と思わせる能力が高い。オタクって一般的にディープな生き物で、特にSNSではガチモンのディープな人が多数目撃できる。そうなると「自分、そこまでディープじゃないんでライトオタクです……」という自己認識になるオタクは結構多いと思われます。

一方で流行りの漫画を読んで、いくつかコミックスを買ったことがあるだけでも「自分ってオタクかも?」と思うことはあるわけです。つまり、射程があまりにも広い

占いや心理テスト同じで、結構な数の層に「ひょっとして自分かも?」と思わせてしまった結果、騒ぎが拡大したという側面はあるのではないでしょうか。

とはいえ、この「ライトオタク女子」と名付けられた層、趣味でくくるには特徴が漠然としすぎているので名付けに苦労したというのはわかります。その結果、狭いような広いような射程の単語が選ばれて、混乱した議論を呼んでいるように見えます。

この層、因果関係も不明なので、あえて自分がまとめるとすれば「恋愛に積極的ではないインドア派」になるでしょうか。

少なくとも、「ライトオタク女子」という言葉は曖昧で適切とは思えません。

以上をまとめると「優しさに取り柄がある草食男子は、恋愛に積極的ではないインドア派女子を狙え」となります。キャッチコピーとしては脆弱で面白くもなんともないですが、こう言われると、まあまあ妥当な気がしてくるのではないでしょうか。

まとめ 

結局の所、今回の騒動はパンチ力のある語彙を選んだ点が根っこです。炎上商法としては正しいでしょうが、このやり方はかなり卑怯です。

というのも、主張を冷静に噛み砕くと、上記のつまらない結論に帰着するので、それ以外の反論は「主張をちゃんと読め」で封殺できるし、ちゃんと読んだら大したことを言ってないので、批判ができないわけです。つまり、変な反論ばかりを叩き放題というわけですね。

どこまでが意図されたものかはわかりませんが、きちんと相手の主張の問題点の根っこを見つけて叩かないと、相手の思う壺になります。実際に、そのようになっていますし。

とはいえ、主張のアクセスしにくさも問題でしょう。Togetterにまとめられているとはいえ、連ツイでつらつらと分析としているだけであり、まとまった記事として見るにはいささか読むのに労力がいる。結果として、扇動的な1ツイートだけが拡散されて騒ぎに至るわけです。

 

SNSの時代、言葉にパンチ力がないと拡散されない現状があるので、幾分仕方ない面もありますが、それでも少しでも議論が建設的な方向へと向かうことを祈るばかりです。