ともきんぐだむ

主にゲームやアニメなどの話題について、その時、考えたことを書きます。

【悲恋ファイル1】悲恋に抗い続けた悲劇の令嬢 ミルフィーユ・ココ(『砂の城』)

悲恋ファイルとは、古今東西の創作物に登場する負けヒロイン・当て馬男子について、重度の悲恋フェチである筆者が語りまくる記事です。普通にネタバレするので注意。

 

今回紹介するのは、1977年~1979年にかけて連載された名作少女漫画『砂の城』より、玉砕令嬢・ミルフィーユ・ココでございます。

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砂の城という作品は、フランスの良家のお嬢様ナタリー・ロームと、その使用人であり孤児であるフランシス・ドベルジュの間に芽生えた愛情から始まるドロッドロの悲恋物語です。

色々あってフランシスは記憶喪失となり死亡しますが、フランシスを忘れられないナタリーは、彼の息子にフランシスと名付けて引き取ります。もうドロドロですね。

そして、歪な関係であるナタリーと子フランシスの間の許されざる愛をめぐって、壮大なドラマが展開していきます。

明確な悪人は存在せず、ただただ想いのすれ違いが不幸の連鎖を生んでいく・・・そんな悲劇的少女漫画の金字塔ともいえる内容になっております。

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さて、ミルフィーユ・ココは子フランシスの学友であるエビアン・ココの妹です。

ワガママ放題に育ったお嬢様で、幼少期から家族ぐるみで付き合っていたフランシスは第二の兄のような存在。

蝶よ花よと甘やかされて育ったミルフィにとって、フランシスは顔がよいだけではなく、紳士的でありながら時に叱ってくれる貴重な男性でもありました。

そら、「私は将来この人と結婚するんだ」と無邪気に信じ込んでしまうわけです。

 

フランシスの心には常にナタリーがいるわけですが、年齢差などを理由にその想いは胸の奥にしまい続けています。

なので、勘違いし放題です

両親も当然のようにミルフィはフランシスに嫁ぐものだと思って歓迎しています。

フランシスは誰に対しても優しいので、ミルフィの思い込みを否定するようなことは何一つしません。

大切な妹としてミルフィを大事にしてくれます

悪い男ですね、フランシス。実に悪い。

 

しかし、壮大な紆余曲折を経て、フランシスは遂にナタリーへの想いを打ち明け、ナタリーと結ばれます。

それを聞いて面白くないのがミルフィーユ。

何しろ、ずっと結婚すると信じて生きてきたカレが、突然10歳以上年上の大年増に取られてしまうのです。

ミルフィにとって、人生の根幹をなしてきた想いが、音を立てて崩れ去る瞬間でした。

 

私のほうが、こんなに若くて可愛いのに! ・・・ずっと貴方を想ってきたのに!

 

嫉妬心を爆発させたミルフィーユ。

 

なんと、ナタリーにナイフを持って襲いかかります。

 

しかし、揉み合った挙句、自身の足を神経まで切り裂いてしまい、歩けない身体になってしまいます

 

なんと惨めなことでしょう。

彼女は、ただ無垢なだけだったのです。

甘やかされて育ち、世に障害などないと言わんばかりに、真っすぐに育ってきたミルフィーユ。

その最初の挫折が、人生の全てを形作っていた想いの否定でした。

そして、暴走した挙げ句、自身は病院送り。

大好きな両親はナタリーに平謝りです。

こんな惨めなことあるでしょうか?

 

だからこそ、一縷の希望に救いを求めます。

 

すっかり外傷も治った後も、ミルフィは歩くことができません。

それはおそらく、精神的なショックによるものだと医師に告げられます。

そして、歩けるようになるまで、リハビリを終えるまででいいから傍にいてほしいと、地べたに這いつくばりながらフランシスに懇願します

なんとみっともないことでしょう。

それでも、彼女にはそれに縋るしか、生きる術を知らなかったのです。

たとえ、もう叶わないと知っていても、わずかな夢に身を浸すしか、生きる希望がなかったのです。

 

しかし、ようやくミルフィにも救済が訪れます。

手酷い傷を負ったことにより、自分のわがまま放題な過去を反省できたのでしょう。

その後、無事に治癒したのちに、ミルフィはフランシスと一日だけ旅行に行きたいと言います。

ミルフィの中で、ようやく踏ん切りがついたのでしょう。

この旅行を最後にフランシスのことは、大切な思い出として、彼女の記憶の中に綺麗に収納されることになります。

・・・まあ、この旅行が更なる悲劇の引き金になるのですが、それはまた別の話

 

さて、愛に生き愛に身を焦がした女、ミルフィーユ・ココの紹介でした。

どうも、このミルフィーユ、テコ入れのために、読者に嫌われそうなキャラということで作られたそうです。

案の定、ミルフィは大いに嫌われ、作品の売り上げは大きく伸びたそうです。

確かに、嫌われる理由は無限にありますね。

 

それでも、自分に正直な彼女の激情は、間違いなく作中でもトップクラスに純心で燃えるような愛情であったと思います。

そんな燃えるような感情を正直に発露してくれる真っすぐさこそが、彼女の魅力であると言えましょう。

彼女の愛を求める言葉は、悲恋の教科書ともいえるほどに素晴らしいものばかりです。

 

「幸せそうな顔なんかしないでよ、あなたじゃない、そこで笑っているのはあなたじゃないのよ。わたしのはずだったのよ」

「神さま・・・どうして? こんなになっても、どうしてまだあたしに、フランシスを愛させるんですか? どうしてこんな苦しい恋を続けさせるんですか・・・」

「だれを愛してもいい・・・あたしのこと愛してくれなくてもいいから・・・あたしを見捨てないで・・・」

「あたしの足は動かなくってあの二人はゴールイン。そんなのってどうやって納得すればいいのよ、ひどいじゃない。あの二人だけ幸福になるのなんかゆるせない、みんな不幸になればいいのよ!」

 

・・・いいですねえ。

愛に生き、愛の喪失を体験し、愛に縋る。

そんな愛に忠実なミルフィーユが、私にはとても愛しく思えます。

それでは、今週はこの辺で。